中村 葵スタジオを始めたのは2017年の秋、東京・目黒の小さなマンションの一室でした。それ以前は大手設計事務所に8年間勤め、商業施設やホテルのインテリアを手がけていました。大きなプロジェクトは刺激的でしたが、ある日、完成したホテルのロビーを眺めながら、「ここに住む人はいない」という当たり前の事実が妙に引っかかりました。住む人の顔が見える仕事がしたい。それがスタジオを立ち上げた理由です。
最初の数年は、知人の紹介だけで仕事をつないでいました。2019年に手がけた世田谷区の一軒家のリノベーションが、施主のSNSで広まり、少しずつ問い合わせが増えていきました。その物件では、築40年の和室の柱をあえて残し、珪藻土の壁と組み合わせました。「古いものと新しいものが喧嘩しない」という感覚を、あの仕事で確信しました。今もその家に住む家族から、季節ごとに写真が届きます。